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「ん」の書き途中
ペン先が滑り
始点にもどってしまった
その一瞬の間に回転し
くしゃっと崩れてしまった
ルービックキューブ状の
心のマス目を
見届けた者はいない
頭を駆け巡っている
無数のパイプたちは
まだ誰にも核心を明かさない
だから
その真相を問うため
手紙を海に流し
誰かからの返事を
気長に待ちたいのだけれど
やむを得ず駆使するのは
自分の足と自転車くらいだ
地理に疎くてよかったことは
このままひたすらに直進すると
何県にたどり着くか
分からないで済むこと
歩き続けていく地面の先にも
紡いでいく言葉にも
阻むものなどなければいいのに
唯一あるとするならば
足場をふさぐ巨木の根
ぐらいでいい
・・・
現在執筆しているのは
そんな旅行記
ルービックキューブのねじれを
試行錯誤で直しながら
もう「ん」を書き損じないよう
気を張りつつ
わたしは書き物机の前に座している
夕方5時、泣いている子供に出くわす
私は
甘い声を出してあやすほど
手馴れた大人ではない
でも私は
大音量で泣く音源を
置き去りにするほど
子供でもない
うろうろと周囲を見回したあと
気恥ずかしい思いで
額をそっと撫でてやる
湿り気と熱気を帯びた皮膚が
同じ血をもつ母性を求めている
半端な気持ちで手を伸ばした私の心根を
拒絶しているのか推し量っているのか
ただ一点だけ明瞭に
私の子供ではないということが
指先から伝わってくる
目には見えない血縁が
偽りの母性をちくちくと責める
子を呼ぶ母の声が聞こえ
張り詰めた息をそっと吐き出し
人知れずその場を後にした
帰り道
高層ビルの窓ガラスが
一枚一枚塗りつぶされてゆくよ
庭
樹木が三倍速で
早送りのように伸びてゆくよ
食卓
鉋屑(かんなくず)の薄紙が
お茶碗に盛られているよ
フォーカスが合わないよ
雨雲が忙しなく押し寄せて
射し 歪む 光の空
ケイコウトウの如く怪しげな
雷の前兆
家々が粗雑に窓を閉め
その響きに面をあげた
私以外の全てが
ヒューヒューと流れる
一粒雨が降るごとに
作り途中だったシロツメ草の冠は弱り
ヒューヒュー音が鳴るごとに
私の手元は焦りまごつく
ゴロゴロゴロと天の一喝
一瞬の鮮やかな明るみ
冠は手からくしゃりと落ちて
我慢できずに家へと駆ける
萎びくすみ始めたシロツメクサが
置いてかないでと束で泣く
「後ろ髪引かれる思い」を知った梅雨
夏が来れば忘れるだろうに
夏が来れば忘れるだろうに
忘れるだろうに
※未冠=ミカンムリ=ミカンノカンムリ=未完の冠
(言わずもがな造語です)
文字をハンマーで叩き割りたい、と思った
アルファベットも
漢字も
ローマ数字も何もかも
ただの線と点にしてやりたかった
・
・
・
粉砕された文字の上に布団を敷いた
眠れなかった
私の中のアドレナリンが
窓から射し込む月光を浴びて大放出した
どうしようもない夜だった
悔し涙が出た
涙のたゆたう水面下では
今、何が起きているのだろうか
手相をみたところで
自身を開腹手術したところで
それはきっと見えてはこない
だが
この場所が私にとって
生涯通じての万年床になるであろうことは
覚悟しなければならないことだった